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キャッシュレス決済やDXサービスを展開するネットスターズは12月6日、お取引先の皆さんをお招きし、決済とDXをテーマとしたビジネスカンファレンスを開催しました。カンファレンスでは、5つのセッションが行われ、店舗DXの最新事例や海外での決済サービスの最新事情、インバウンド向け決済対応の取り組みなどが紹介されました。
本記事では、「今、注目の海外決済」をテーマに、三菱UFJ銀行シニアフェロー、トランザクションバンキング部長の松本雅弘さんと、韓国のBC CardグローバルビジネスディビジョングローバルN2Nチーム、シニアマネージャーのジョシュア・リーさんが登壇したセッションの様子をお伝えします(聞き手はネットスターズ執行役員兼事業統括本部Global Business事業部長の福山太郎 ※肩書は当時)。
福山 松本さんは、タイのアユタヤ銀行でPromptPayの拡販を担っていらっしゃいましたね。タイのキャッシュレス決済の現状を教えていただけますでしょうか。
松本 私は最近まで4年間タイに駐在し、それ以前にも6年、通算で10年間、タイ・アユタヤ銀行で決済業務などを担当していました。特に直近の4年間は、現地でもキャッシュレス化が急激に進んだ変化の激しい時期だったと思います。
タイでは2015年に中央銀行と財務省が「ナショナルeペイメント」という国家戦略を策定しました。決済インフラの高度化やキャッシュレス化を推進しあらゆる人に公平に金融サービスを提供していこうとする内容です。まずは多くの人に送金の手段を提供するため、国民IDや携帯電話番号と銀行口座を紐づけることで、個人間で少額送金ができるPromptPayという複数の銀行による決済ネットワークをつくったわけです。ここから、キャッシュレスの文化が徐々に広がっていきました。
日本と大きく事情が異なるのは、日本ではメインプレーヤーとしてQRコード決済の普及をリードしたのは決済サービス事業者であるのに対し、タイでは初期段階から中銀が主導し、参加する銀行がメインプレーヤーとなってきたことです。このため、決済に使われるのは主に銀行のモバイルアプリで、口座から引き落とすダイレクトデビット方式が主流になっています。
そしてもうひとつ日本と異なる点は、日本では支払う側がアプリでコードを提示して、店舗がそれを端末で読み取る形式が主流ですが、タイでは支払う側が店舗に掲示されるコードをアプリで読み取る方式が中心になっていることです。屋台のような端末を置けない店でも紙のQRコードを掲示すれば済むので、一気に利用が拡大した経緯があります。
福山 ジョシュア・リーさんは、韓国のクレジットカード会社BC Cardでグローバルビジネスを担っていらっしゃいます。BC Cardはクレジットカードの発行のほか、韓国最大のクレジットカードプロセッシングを担う企業で、PayboocというQRコード決済を展開していますね。韓国のキャッシュレス決済の現状を教えていただけますか。
リー 韓国のQRコード決済は日本と状況がよく似ていて、加盟店舗には顧客のコードを読みとる端末が設置されているのが一般的です。タイやマレーシアなどASEAN諸国のようにナショナルスイッチングセンターはなく、政府主導のゼロペイというサービスがあるものの、成功しているとはいえません。日本と同様、金融だけでなくさまざまな業種の企業が決済サービスに参入し、激しい競争を展開しています。こうした中で、当社のPayboocは金融関連の事業者の中では最も多くの会員数を持っています。
韓国で最大のシェアを持つのは、Naver Payです。Naverは検索サイトを中心に多彩なサービスを提供する企業で、日本でヤフーの子会社がPayPay を展開しているのと似ています。また、プリペイド決済のtoss bankも拡大しているほか、韓国で最も有名なメッセンジャーアプリであるKakaoもKakaoPayというサービスを提供しています。製造業でも、Samsungが提供するSamsung Pay、日本でも有名なApplepayもあります。これらの電子ウォレットサービスは、若い世代の支持を受けて取引額を大きく伸ばしています。
福山 タイでのPromptPayの利用状況はいかがでしょうか。
松本 政府はPromptPayのID で税の還付を受けられるようにするなどの普及促進策を打ち出したことも普及を後押ししましたが、PromptPayが一気に定着した最大の要因は新型コロナウイルスの拡大だったと思います。
コロナ禍の初期段階でタイの人たちがコロナを恐れる気持ちは非常に強く、紙幣を受け取ると1枚1枚アルコール除菌するようなことも普通に行われていたほどです。当然、現金のやり取りは嫌われ、加盟店の中には現金決済を断るところも出てきました。アユタヤ銀行も中銀からこの機会にPromptPay を拡大したいと、改めて要請を受けた経緯もあります。
こうした追い風を受けてQRコード決済は爆発的に普及しまして、タイの人口が約6600万人のところ、最大の決済サービスであるPromptPayのID登録数は約6900万人と、重複を考慮してもほぼ全国民が使っているような状態になっています。
私自身、直近4年の滞在で、現金を使うのはゴルフ場のキャディさんに渡すチップぐらいで、ほかは全部QRコード決済でした。タイ国内のほとんどの決済は、QRコードで可能になっています。
福山 タイのキャッシュレス決済の利用状況はすごいですね。日本の加盟店でも、タイのお客さんが多くいらっしゃる店舗ではPromptPayを導入する価値は大きそうです。それではジョシュアさん、韓国でのPayboocの状況をお聞かせください。
リー 当社は他のウォレットとは異なり、最大手のNaver Payなど他の事業者に自社の加盟店ネットワークを提供するなど、他社とのコラボレーションを重視しています。
国内だけでなく、海外でも企業提携を拡大しています。これまでにマレーシアやタイで、各国でのサービスを相互利用するための取り組みを進めています。韓国から海外に出かける旅行者のアウトバウンド需要に加え、海外から韓国を訪れるインバウンド客の需要にも対応していきたいと思っています。
そしてこのほどBC Cardは、訪日韓国人が日本国内での決済に支払いにPayboocを利用できるよう、ネットスターズと提携することになりました。日本は韓国にとって最も往来しやすい身近な国のひとつなので、この連携で韓国人旅行者の利便性を高めていきたいと考えています。
福山 Payboocは比較的新しいサービスであるにもかかわらず、すでに会員数は900万人、平均のマンスリーアクティブユーザー数は400万人に達するという凄まじい成長を遂げている決済サービスなので、日本の皆さんにもぜひ注目していただきたいと思います。それでは最後に、今後の展望についてお話しいただけますでしょうか。
松本 PromptPayが今後注力していくのは、グローバル展開です。タイに限らず、ASEAN諸国は観光業が非常に重要な産業なので、観光地としての魅力を高め、旅行者を誘致することは至上命題です。
海外からの観光客に利便性を提供するクロスボーダー決済の実現に向けた動きはすでに本格化しており、2022年にはタイの中央銀行が「タイランドペイメントロードマップ」という戦略を発表し、QRコード決済をマルチラテラルに拡大していく政策が示されています。すでにシンガポール、マレーシア、ベトナム、カンボジア、インドネシアこの5カ国と双方向での連携が完了しており、タイの人たちはこれらの国々で自国通貨のバーツのままQRコード決済ができる状況になっています。
アユタヤ銀行はタイの銀行ではありますが、三菱UFJフィナンシャル・グループの一員でもあるので、グローバル対応の中でも特に日本との関係を重視しています。こうした中でネットスターズと提携し、東京ソラマチや横浜赤レンガ倉庫、東京駅一番街などの商業施設、約3000店舗で、日本を訪れるPromptPayユーザーに決済サービスを提供しています。2025大阪・関西万博に向けて、タイ人観光客が多く訪れる施設を中心に加盟店網をさらに拡大していく方針です。
リー BC Cardでも同様の展望を持っています。ネットスターズと連携を密にして日本での加盟店網を拡大し、さらに海外でのネットワークを広げていきたいですね。加えて、決済だけでなく個人間や企業間で、国境を越えたクロスボーダー送金サービスの拡大にも力を入れていくつもりです。
福山 ネットスターズとしても、弊社のミッションである「お金の流れを、もっと円(まる)く」をグローバルで実現できるよう、海外のパートナーの皆様と協力して取り組みを継続してまいります。本日はどうもありがとうございました。